映画「ルーム」が描く、ブリー・ラーソン演じる若い母親ジョイと5歳の息子ジャックの物語は、設定だけを聞けば随分とエキセントリックに思えるかも知れない。
ある日突然誘拐され、7年間監禁され続けた悲劇の女性ジョイ。そして監禁部屋で生まれ、外の世界を知らないまま5歳になったジャック。そんな母子がついに解放されるのだが、目の前にあらわれた現実の世界は2人を困惑させてしまう……。
7年にわたる拉致監禁、誘拐犯との間に生まれた息子、命を懸けた脱出劇と世間からの好奇の目。数あるゴシップ的要素にも関わらず、「FRANK フランク 」のレニー・アブラハムソン監督は地に足を付けた演出で奇妙な環境で普通に生きようとする葛藤を等身大に描き出す。
狭い監禁部屋から出たことがないジャックは、テレビを通じてだけ外の世界を覗いてきた。しかし息子に〈閉じ込められている〉と感じて欲しくないジョイは、部屋の中が〈本物=現実〉で、画面の中の出来事は〈偽物=フィクション〉だと教え込む。2人がいる部屋の外には空っぽの宇宙しかなく、出ると死んでしまうとウソをつくのだ。